マイアミ・バイス シーズン1 : 特集

スタイリッシュな刑事コンビによるド迫力の銃撃戦で犯罪アクションの金字塔に

マイアミ・バイス シーズン1 コンプリートDVD-BOX/発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン/税込価格:17,800円シーズン2~3 好評発売中、シーズン4 7月13日発売!

 「マイアミ・バイス」は、84年9月16日より米NBCにて放送され、89年まで実に5年間にわたってシーズン5まで全111話製作されたスタイリッシュな刑事アクションドラマだ。日本では、86年より「特捜刑事マイアミバイス」としてテレビ東京系にて、ゴールデンタイムに放送された。後に「ヒート」「インサイダー」といった男臭いドラマを撮り上げたマイケル・マン監督が、製作総指揮を務めた彼の出世作でもある。アメリカならではの凶悪犯罪や社会問題に深く斬り込んだリアルな犯罪ドラマであり、舞台はフロリダ州マイアミ(正確にはフロリダ州最大の人口のマイアミデイド郡)。燦々と輝く太陽と美しい海に抱かれたアメリカの“南の玄関”だが、ブライアン・デ・パルマ(監督)&オリバー・ストーン(脚本)が83年の「スカーフェイス」で描いたアメリカ最大の犯罪地帯であり、クライム小説の名手エルモア・レナード(「アウト・オブ・サイト」)がしばしば小説の舞台にする犯罪都市である。ヤン・ハマーのかっこいいシンセサイザーサウンドが流れるタイトルバックで、ピンク色のフラミンゴが飛び立つ姿が実に“南の楽園”マイアミっぽかった。

 主人公は、マイアミデイド郡警察の風紀課“バイス・スクワッド”の潜入捜査官、ジェームズ・“ソニー”・クロケット(ドン・ジョンソン)とリカルド・“リコ”・タブス(フィリップ・マイケル・トーマス)。相棒を殺されたソニーと、ニューヨークで警官だった兄を殺されたリコがコンビを組み、共通の仇敵である麻薬ディーラーの凶悪犯カルデロンを追う。“バイス・スクワッド”の仲間たちの活躍も描かれるが、チームリーダーであるロドリゲス主任はシーズン1の半ばでカルデロンが放った殺し屋の凶弾に倒れて殉死する。後任のマーティン・キャステロ主任(エドワード・ジェームズ・オルモス)が少し暴走気味のソニー&リコのコンビを絶妙にハンドリングした。70年代にアクション刑事ドラマとして「刑事スタスキー&ハッチ」が一世風靡するが、マイケル・マンはこの脚本も書いており、本作はその決定版だった。スピーディなアクションはひたすらスタイリッシュで、軽妙な2人の掛け合いもユーモアがあった。ソニーもリコも潜入捜査官という点がミソで、全部当局から貸し出されていたという設定がゴージャスだった!

 ベルサーチやアルマーニといったイタリア製の高級ブランドの服を着て、腕時計はロレックスだった。フェラーリのデイトナ・スパイダー(実装はコルベット)やテスタロッサといったスーパーカーを乗り回し、海上ではスカラブなどのパワーボートをかっ飛ばした。余談だが、ソニーの衣装はどんな高価なものでも本人1着・スタントマン2着・予備1着と常に4着用意されていたという。毎回、2人が着るファッションは男性誌の手本となった。2人のセクシーな魅力が人気の秘密であり、特にドン・ジョンソンは全米のセックスシンボルだった。

 またガンアクションにおける“リアリティへの追求”がこのTVシリーズを“伝説”たらしめている。特に、銃器へのこだわりだ。拳銃や軽機関銃で撃つ側はもちろん、撃たれた側の“着弾”も見ていて痛々しくなるぐらいリアルで、当時のTVコードの限界スレスレだった。その進化形ともいえるド迫力の銃撃戦はマイケル・マン自らが監督した映画版「マイアミ・バイス」(06)で見られる。

 リアルな緊迫感を生み出した夜の撮影は、日中の撮影よりも予算がかかり、人気絶頂だったシーズン2の1話あたりの予算は140万ドル(当時のレートで約3億円)。1時間ドラマの当時の相場の2倍もかけていた。しかし予算超過は毎度のことで、再放送のマーケットから足りない分をかき集めていたという。だが、そのスタイリッシュな夜の撮影は当時としては画期的なもので、後の「X-ファイル」「24」「CSI」といったドラマに大きな影響を与えているといえる。

 ストーリー面でも、それまでの刑事ドラマは1話完結で、最後に必ず犯人が逮捕されてきたが、このドラマは決して単純ではなかった。敵が金を無尽に持つ麻薬ディーラーであり、せっかく逮捕してもすぐに保釈金を払われ放免になることもザラだった。未解決事件も結構あり、そうした作り手たちのシニカルな話術が苦い後味をかもし出し、よりリアルに感じさせた。日本では鳴り物入りで放送が始まったものの、今一つ人気が上がらずにシーズン3までしか放映されなかったのはそんなシニカルさに原因があったかもしれない。

 また、最新のヒットチューンが(当時開局されたばかりの)MTV感覚で、独特の映像美とマッチしていたのも世界的な大人気の要因だ。というのもこの企画自体、当時3大ネットワークで常に3番手にあえいでいたNBCのプロデューサー連中による起死回生の策であり、MTV風の音楽と刑事ドラマを合体させた「MTVコップス」という抜群のアイデアを実現化したものだったからだ。事実、フィル・コリンズらをフィーチャーしたヤン・ハマー作曲のサウンドトラック盤は、(60年のヘンリー・マンシーニ作曲「ピーター・ガンのテーマ」以来)ビルボードの第1位に輝くなど社会的現象ともなった。

 また毎回多彩なゲストスターを迎えたので、驚異的な高視聴率をたたき出した。大物ミュージシャンも多数ゲスト出演した。シーズン1ではグレン・フライ、イギー・ポップ。サントラ盤がミリオンセラーになった後のシーズン2以降では、ジーン・シモンズ、マイルス・デイビス、フィル・コリンズ、フランク・ザッパ、ウィリー・ネルソン、ジェームズ・ブラウン、アイザック・ヘイズらが出演。そしてシーズン4では、シーナ・イーストンがやがて主人公ソニーの妻となる人気歌手を演じている。

 今のハリウッドスターも多数ゲスト出演している。ブルース・ウィリス、デニス・ファリーナ、ミゲル・ピニェロ、バート・ヤング、パム・グリア、マイケル・マドセン、ジョン・タトゥーロ、ビング・レームス、ジュリア・ロバーツ、ネイサン・レイン、ジョン・レグイザモ、リーアム・ニーソン、スティーブ・ブシェーミ、ビル・パクストン、ウェズリー・スナイプス、ヘレナ・ボナム=カーター、アネット・ベニング、ビゴ・モーテンセン、メラニー・グリフィス、ベニチオ・デル・トロ、スタンリー・トゥッチ、ローレンス・フィッシュバーン、クリス・ロック、クリス・クーパー……。この豪華ゲストがシリーズの絶大な人気の証である。ドン・ジョンソンが演出したエピソードもある。彼はシーズン2第34話「ベトナム・コネクション・地獄の戦場から蘇った白い悪夢」など計4話を演出、キャステロ役エドワード・ジェームズ・オルモスも、第32話「二重スパイ抹殺指令!暗躍・フロリダ国際諜報戦」の1話を演出している。オルモスは92年に「アメリカン・ミー」という骨太な作品を撮り上げた実力派だ。演出家連中も多彩であった。

 なお、脚本家の1人に「24」のクリエーター、ジョエル・サーナウが加わっている点に注目だ。このサーナウは「24」シーズン3のプロットラインを「ダ・ヴィンチ・コード」にしようと最初に映像権獲得を画策した男である。予測できないストーリー展開は、「24」の遙か前、「マイアミ・バイス」の頃から始まっていたのだ。

 とにかくTVシリーズの金字塔のような刑事アクションだが、日本ではソニーの吹替の声は隆大介、リコの声は尾藤イサオでどちらもハマっていたが、驚異的な視聴率とはならずに、最初はシーズン4の途中まで80話分が放送されるにとどまった。現在AXNチャンネルで(シーズン3が)再放送中だが、近々シーズン3のDVDボックスも発売される。初めて日本で放映されたとき、あまりに過激なセックスとバイオレンス描写のため、放送を見送られたエピソードもいくつかある。今秋までにシーズン4とシーズン5のDVDボックスも発売され、遂に全111話を見られるのは日本のバイスファンにとってすばらしい朗報である。

(佐藤睦雄)

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