刑事コロンボ ファーストシリーズ : 特集

古レインコートに安葉巻をふかしたコロンボ刑事と大物ゲストスターの対決に興奮

 「古畑任三郎」はスタイルの上で「刑事コロンボ」のパクリである。「刑事コロンボ」旧シリーズは、1972~79年にNHKで放映されたミステリTVドラマ(全米では1968~78年にNBCで放映。67年「殺人処方箋」、71年「死者の身代金」の2本のパイロット版がある)。製作はユニバーサル映画だ。

 それまでのTVミステリには珍しく、完全犯罪を企む犯人の周到な犯行を見せたあと、コロンボ警部(ピーター・フォーク、声:小池朝雄&石田太郎)が、わずかな手がかりをもとに犯人をつきとめる「倒叙」スタイルになっている。見ている我々は、あらかじめ真犯人を知らされているので、コロンボがどう犯人と対決していくのか興味を集中させることができた。よれよれのレインコートを着て、安葉巻をふかしたコロンボ刑事が、推理して犯人の目星をつけ、「あっ、もうひとつだけ……」とするどい質問をしつこく投げかけ、犯人がボロを出すのを待つわけだ。ロサンゼルスという土地柄か、犯人は金持ちのセレブリティが多かった。

 左目が義眼であるピーター・フォークのやぶにらみがさまになっていた。演技力が試されるセレブな犯人役を、全米の視聴者なら誰もが知っている大物スターがゲストとして演じたのだ。科学者役のロディ・マクドウォール、指揮者役のジョン・カサベテス(P・フォークの親友だ!)、舞台俳優夫婦役のリチャード・ベイスハート&オナー・ブラックマン、心臓外科医役のレナード・ニモイ、料理研究家&銀行家の双子役のマーティン・ランドー、化粧品会社社長役のベラ・マイルズ、ワイン醸造会社社長役のドナルド・プレザンス、カントリー歌手役のジョニー・キャッシュ(そのまんまだ)……。「アメリカン・ヒーロー」で有名なロバート・カルプなどは第3シーズンまでに3度も出演している。

 犯人の犯行も、おやおや?と思わせる鮮やかな手口が多かった。第3シーズン「意識の下の映像」では、マーケティング会社社長のロバート・カルプが、砂漠の映像の中に冷たい飲み物をひとコマだけ入れたコマーシャルフィルムを映写室で流し、水を飲もうと外に出た男を殺すという犯行。まだ「サブリミナル効果」という言葉が知られる以前のこと だ。倒叙推理のゲームを十二分に楽しませるかのように、プロットはよく練られていた。

 イタリア系アメリカ人であるコロンボの大好物は、赤えんどう豆と挽肉を煮込んだ代表的なイタリア料理の辛い豆スープ「チリ・コン・カルネ」だった。ロサンゼルスにある老舗ホットドッグ屋「PINKS」に行くはるか前のことだったから、チリがどんな食べ物かわからず、興味津々で見た。また、コロンボはオンボロのプジョーだったが、犯人たちはみな高級車に乗っていた。とにかく当時のロサンゼルス(ビバリーヒルズ~ハリウッドヒルズ)の風俗やファッションをうまく描いていた。

 コロンボの声をやった小池朝雄は当時、東映やくざ映画などで渋い悪役をよく演じていたが、「うちのカミさんがねぇ……」という粘りつくようなあの声でお茶の間の人気を博した。また、ゲストスターの声優たちも一流どころばかりで、声の演技合戦も楽しかった。特筆すべきは、第1シーズンの第1話「構想の死角」をスティーブン・スピルバーグが監督していること。まだ20代半ばだった、のちの大監督はスーツでめかし込んで重役のふりをしてユニバーサル撮影所に潜り込んだというエピソードがある。翌年にはTV用映画「激突!」を、翌々年劇場用映画「続・激突!/カージャック」を監督することになる。

 「刑事コロンボ」といえば、あのヘンリー・マンシーニ作曲のテーマ曲だが、実際は「NBCミステリー劇場」(「コロンボ」を含めた4本のTVシリーズを4週間おきに放映した)のテーマ曲である。いうなれば岩崎宏美など決まったテーマソングが流れる「火曜サスペンス」みたいなものだ。だが、「火サス」とは比較にならないほど、手を変え品を変え、さまざまな犯罪を見せた、よくできた刑事ドラマだった。だからこそ、「8時だョ!全員集合」のあと、あの音楽を、あのコロンボの声を聴きたくて、NHKにチャンネルを回したものだ。

(佐藤睦雄)

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