奥さまは魔女 シーズン1 : 特集

鼻を動かし魔法をかけるサマンサとダーリンのコミカルな生活

  いかにも60年代風なハンナ・バーバラ・プロ制作のアニメーションに、軽快なテーマ曲(作曲:ジャック・ケーラー)が鳴って、ナレーションがかぶさる。「ごく普通のふたりは、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。でもただ一つ、違っていたのは……奥さまは魔女だったのです」(声:中村正)。

 そんな軽快なオープニングタイトルとともに始まる“シットコム”「奥さまは魔女」(原題:Bewitched)は、1964年から72年まで全8シーズン、米ABCネットワークで放送された連続TVシリーズ。日本では66年からTBS系列で日本語吹替版が放送された。作られたのは全部で254話で、モノクロが74話、カラーが180話だった。

 ニューヨークの広告代理店に勤めるダーリン・スティーブンス(ディック・ヨーク→ディック・サージェント/声:柳澤真一)と、妻のサマンサ(エリザベス・モンゴメリー/声:北浜晴子)のごく普通の家庭生活を描くという物語だったが、笑いのツボは、妻のサムが魔女だという点。彼女が鼻をピクピク動かすだけで、魔法がかかってとんでもない珍騒動が沸き起こるというわけだ。さらにサムの母エンドラ(アグネス・ムーアヘッド)、アーサーおじ様(ポール・リンド)やクララおば様(マリオン・ローン)も現れ、彼らが引き起こす騒動のスラップスティックなギャグも秀逸だった。

 クリエイターのソル・サックスは、この秀逸なプロットのために過去のコロンビア・ピクチャーズのコメディを原点にした。まずは、42年製作のルネ・クレール監督作「奥様は魔女」。ベロニカ・レイク、フレドリック・マーチ主演で、レイクが魔女で、マーチ演じる普通の男と結婚する。セシル・ケラウェイが魔女の父親を演じているが、このキャラクターを母エンドラに変更したと言われる。もう1本は58年製作のリチャード・クワイン監督作「媚薬」。これはキム・ノバク、ジェームズ・スチュワート主演のラブストーリーで、やはりノバクが魔女。エルザ・ランチェスター演じる叔母、ジャック・レモン演じる弟など魔女の親族で、レモンはアーサーおじ様の下敷きにもなっている。

 もう一つ、シットコムを彩ったのは、ダーリンの側の上司にあたるラリー&ルイーズ・テイト夫妻だろう。スティーブンス夫妻の家はニューヨーク郊外にあるコネティカット州ウエストポイントという設定だったが、この夫妻は近所に住んでいて互いの家を往き来した。当時のプチ金持ちが住む“サバービア”の情景だ。大きな冷蔵庫、大きなダイニングテーブル……。憧れのアメリカ的な暮らしがそこにはあった。

 実のところ、こうしたおかしみのあるキャラクターが織りなすシチュエーション・コメディ(=シットコム)だったのだ。全8シーズン作られたが、ドラマは常に1話完結で、同じようなプロットが繰り返された。またそれが人気の秘密でもあった。

 視聴率が一時落ちたために、シリーズの途中170話まででディック・ヨークが責任を取らされる形で降板した。後任のディック・サージェントが残りのエピソードを全話演じたが、髪を七三に分けたスーツ姿のダーリンは、ギョロ目のヨークのほうが演技力もあってピッタリだった。

 もう1人、このシリーズの人気の的になったのが、スティーブンス夫妻の娘タバサちゃんだ(息子のアダムくんものちに授かる)。シーズン2では、5名の赤ちゃんがかわいい魔法使いを演じたという。シーズン2の後半からシーズン5の半ばまでの最も長い期間、エリン・マーフィとダイアン・マーフィの双子の姉妹がタバサを演じていた。双子を使ったのはスケジュールの効率化が図られたためだ。

 もちろん、サマンサ役のエリザベス・モンゴメリーについても触れなければならない。このTVシリーズが放映されていた63年から10年間、同シリーズのプロデューサー、ウィリアム・アッシャーの実生活の妻でもあり、3人の子供をもうけた。1回目の妊娠の時はなるべく顔のアップを使って視聴者に悟らせないようにしたという。2回目と3枚目の妊娠の時は大きなお腹が映ってもいいように、ストーリーラインに組み込まれたという。

 モンゴメリーが鼻を動かす仕草は、シリーズの人気絶頂時、日本の菓子メーカーのビスケットのCMに使われたほどだった。サマンサのイメージが強すぎて、他の映画やTVドラマの仕事がかすんで思えるほどだが、このサマンサ役で彼女は、エミー賞5回受賞、ゴールデン・グローブ賞でも4回ノミネートされている。彼女の存在なくしてシリーズの成功はなかった。

 「奥さまは魔女」の面白さと根強い人気は、同時期に制作された「アダムス・ファミリー」(64)や「かわいい魔女ジニー」(65)といった“ファンタジー・シットコム”と比べて、このだけが何度も何度も再放送されていることからもお分かりだろう。

(佐藤睦雄)

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