ツイン・ピークス シーズン2 : 特集

すべての"デビット・リンチ的なるもの"は「ツイン・ピークス」にあり

 まずは、アメリカ北部の小さな町ツイン・ピークスが、デビッド・リンチ自身の原風景を踏まえたもの。この町はカナダ国境近くという設定で、実際にワシントン州スノコルミーでロケされたが、リンチが生まれたのはカナダと国境を接するモンタナ州ミズーラ。幼年時代は同州と横並びの北部アイダホ州とワシントン州で過ごす。ドラマに映し出される町はリンチ少年が過ごした場所なのだ。出身地ミズーラは、ドラマにもローラの従姉妹マデリーンの出身地として登場する。

 また、平和な町がその裏に隠している暗黒面が暴かれていくのは「ブルーベルベット」「ロスト・ハイウェイ」などリンチ作品の定番。ツイン・ピークスは、都会からやってきたFBI捜査官クーパーが事件の内容より先に見事な樹木の名前を保安官に尋ねてしまうほど、豊かな自然に恵まれた静かな町。だが、その裏では麻薬密輸や横領、不倫や近親相姦が横行している。

 そして、異形の者と奇人たちの登場は処女作「イレイザーヘッド」から続くリンチ映画のお約束。「マルホランド・ドライブ」ではバスケットから小さな老女と老人が現れ、ブラック・ロッジ的空間や小さい人が登場、新作「インランド・エンパイア」ではウサギの頭部を持つ人々が出現するが、本作にも巨人や小さい人、丸太おばさん、森に潜む邪悪な存在、片腕の男らが続々登場。

 そもそも俳優たちもリンチ映画の常連揃い。「イレイザーヘッド」の主人公を演じたジャック・ナンスは製材所のピート役、その妻を演じた女キャサリン・コールソンは丸太おばさんの役、奇形児の母を演じたシャーロット・スチュワートはボビーの母役で出演。同時期に撮影された「ワイルド・アット・ハート」にはシェリル・リーはじめ本作の俳優が多数出演。本作でローラ・パーマーの母親を演じて強烈な印象を残すグレイス・ザブリスキーは「ワイルド~」でも新作「インランド・エンパイア」でも怪演する。

 さらに忘れてはならないのは、アンジェロ・バダラメンティの音楽。「ブルー・ベルベット」以降のすべてのリンチ映画の音楽を担当するバダラメンディの音楽は、脳を痺れさせる甘美さ。その甘美さの裏にたっぷりと仕込まれた毒は、リンチ映画の真髄なのだ。

「ツイン・ピークス」は「謎」と「引用」であふれている

「マルホランド・ドライブ」にリンチの仕掛けた謎を思い出そう。このドラマもまたリンチ流の「謎」に充ちている。そしてその「謎」は登場するたびに新たな側面を見せ、見る者を解釈の迷宮の奥深くへと誘っていく。加えて「引用」も多数登場。ヒッチコックからアーサー王伝説、アメリカ先住民の伝説までが登場し、観客が迷い込んだ解釈の迷宮をさらに入り組んだものにしていくのだ。

【謎】

謎1:赤いカーテンの部屋

突如出現する"赤いカーテンの部屋"で、老人となったクーパーは、奇妙な声で話す小さな男とローラそっくりの女性に出会う。この部屋はローラが拘束されていた赤いカーテンの山小屋と関係があるのだろうか? シーズン後半に登場する"ブラック・ロッジ"とどこかで繋がっているのだろうか?

謎2:「火よ我と共に歩め」

ローラ殺害の現場に落ちていた紙片に記されていた文は「Fire, walk with me.(火よ、我とともに歩め)」。片腕の男は、片方の腕にこのタトゥーを彫っていたため、その腕を切り落とさなくてはならなくなったと語る。この言葉にはどんな意味があるのか?

謎3:ボブ

クーパー捜査官の夢と、ローラの母親の夢に出現した謎の男。ローラと共に被害にあったロネットもこの男の顔に見覚えがあった。彼はどのような存在なのか? また、片腕の男とはどんな関係にあるのか?

謎4:丸太

丸太おばさんがいつも抱いている丸太は、新婚初夜に夫から贈られたポンテローサマツの若木。この丸太はローラが殺害された夜、ある光景を目撃していた。保安官補佐ホークは樹木には不思議な力があると語るが…。

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「愛の招待状」

住民が見ているソープ・ドラマ。主人公の姉妹がひとり2役で演じられているところに、本作の謎を解くカギが? 監督は、本作をリンチと共同製作したマーク・フロスト。

ブルー・ブック計画

実在する計画で、アメリカ政府による宇宙人とUFOに関する機密調査のこと。のちに「X-ファイル」に頻出。ボビーの父、ブリッグス少佐はウィンダム・アールと共にこの計画に従事していた。

グラストンベリー

町はずれの森の中の"ブラック・ロッジ"の入り口がある場所の名。英国にある同名の地は、ケルトの伝説的英雄アーサー王の墓があるとされ、異界への入り口とも言われている。この土地で毎夏ロックフェスが開かれる。

「めまい」

ヒッチコックの名作映画。金髪のヒロインの名はローラの従姉妹と同じマデリーン。この映画では自殺したヒロインと、ヒロインとそっくりの女性をキム・ノヴァクが二役で演じるが、本作のローラとマデリーンもシェリル・リーの二役。

「ローラ殺人事件」

オットー・プレミンジャー監督、44年製作のサスペンス。殺害される女性の名は本作と同じローラ。その顔は判別できないほど破損されており、刑事の捜査で思わぬ事実が判明していく。この映画にはローラの友人のウォルドー・ライデッカーという人物が登場するが、「ツイン・ピークス」にはウォルドーという名の九官鳥と、ライデッカー動物病院が登場する。

ヘスター・プリン

オードリーが父の経営する売春宿"片目のジャック"に潜入した際に名乗る偽名。これはナサニエル・ホーソンの古典名作「緋文字」で、不倫の子を産んで人々に非難されるヒロインの名。

詩人シェリー

クーパーがかつて愛した女性キャロラインに送り、彼の宿敵ウィンダム・アールがミス・ツイン・ピークス・コンテストのクイーン候補者たちに送る詩は、18世紀の英国詩人シェリーの「愛の不条理」という詩。

鹿

警察署やホテルなど町のあちこちに、鹿の首部の巨大な剥製が飾られている。鹿はキリスト教のシンボリズムでは“救済を求める魂”で“森”に住むとされている。この森は“肉体”をも意味する。

白馬

ローラの母や従姉妹が、パーマー家の居間で白馬を幻視する。ローラの日記に記された、彼女が12歳の誕生日に父からもらった子馬と関連があるのだろうか。ヨハネの黙示録では、蒼白い馬は「死」の象徴でもある。

フクロウ

町のあちこちに出現。丸太おばさんの丸太はローラの死の夜について「フクロウが近づき、闇が彼女を包む」と語る。アメリカ先住民にはフクロウは死後の魂だとする部族がある。

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