LOST シーズン5 : 特集

 J・J・エイブラムス監督の「スター・トレック」を鑑賞した人なら、「LOST」シーズン5とのストーリー上の共通点に気づいたに違いない。23世紀の未来を舞台にしたSF超大作も、ミステリアスな島を巡る壮大なドラマも、タイムトラベルが大きな鍵となっているのだ。

 「LOST」にタイムトラベルが導入されると聞いて、展開が突飛すぎると感じる人がいるかもしれない。しかし、「LOST」を振り返ってみれば、時間が常に重要な役割を果たしてきたことに気づくはずだ。現在進行中のドラマに、過去を描くフラッシュバックや未来を描くフラッシュフォワードを挿入するのが「LOST」独自の物語フォーマットであり、パズルを解くような知的刺激と、エモーショナルなドラマを生み出す原動力となっていた。そして、最終シーズンを目前に控えたシーズン5では、主要キャラクターたち自身が時間旅行を体験することになる。クリエイター陣にとってみれば、これまでの手法を一歩推し進めたに過ぎないのだ。

 タイムトラベルで明らかにされるのは、「LOST」の真の主役といえる島の歴史である。オーシャニック815便が墜落する前にも、ダニエル・ルソーが所属していた「フランスの科学調査隊」や「ダーマ・イニシアチブ」「他のものたち」「チャールズ・ウィドモア」「ブラック・ロック号の奴隷」「ジェイコブ」「四本指の石像」を造った人々など、さまざまな人物がこの島にいたこと明らかになっている。ついに、これまでベールに包まれていた事実が映像によって語られることになるのだ。

 明らかになるのは、なにも島の歴史だけではない。「LOST」の物語世界において時間旅行が可能ということになれば、これまでに起きた不可思議な出来事について新たな推理が可能になる。つまるところ、謎の核心へと大きく前進することになるのだ。

 これまでの「LOST」では、恋愛ドラマやアクション、ミステリーなどの影に隠れて、SF的要素が注目されることは少なかった。しかし、シーズン5ではタイムトラベルが登場することもあって、その本性をついに露わにすることになる。登場人物が2つの時代に引き割かれたままドラマが進行していくという、これまでにない野心的なスタイルで、シーズン4からの勢いをそのまま加速させた作りになっている。

 もちろん、「LOST」のもう1つの特徴であるヒューマンドラマが忘れ去られたわけではない。チャーリーを失ったハーリーはマイルズと新たなコンビを結成することになるし、物理学者のファラデーと無学なソーヤーとの丁々発止は愉快だ。また、精彩を欠いていたジャックが徐々にリーダーとして復活を遂げていくプロセスも感動的である。なかでもジュリエットのラブストーリーはシーズン5最大の見どころだろう。

 タイムトラベルが導入されることから想像つくだろうが、シーズン5の焦点はずばり歴史改編だ。たとえば、「スター・トレック」では、未来からやってきた悪者が事件を起こしたことがきっかけで、これまでのスター・トレック史とは異なる、新たなタイムラインが生まれた。40年以上の歴史があるこれまでの「スター・トレック」に囚われず、仕切り直しをするためにクリエイター陣が採用した妙案だが、果たして「LOST」でも同様のことが起きるのだろうか?

 2010年2月2日に全米放送開始となるシーズン6で、「LOST」はついにフィナーレを迎える。いまはただ、TV史に残る傑作ドラマをリアルタイムで視聴できる喜びを噛みしめたいと思う。(小西未来)

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