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カテゴリ:テレ中のつぶやき

第9回 1話完結型と連続型のハイブリッドで独自のスタイルを確立した「フリンジ」

第9回 1話完結型と連続型のハイブリッドで独自のスタイルを確立した「フリンジ」

J・J・エイブラムスの新たな試み「FRINGE/フリンジ」
J・J・エイブラムスの新たな試み「FRINGE/フリンジ」
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 「FRINGE/フリンジ」が、シーズン3に突入することが決定した。シーズン2から放映時間が木曜夜9時という激戦区に移動したため、「CSI」や「グレイズ・アナトミー」「The Office」といった人気番組の影に隠れてしまっていたが、とりあえず打ちきりを逃れたかっこうだ。

 それにしても、ヒットメーカーのJ・J・エイブラムスが手がけたドラマが、これほど苦戦を強いられるのはとても珍しい。エイブラムスは自身の制作会社バッド・ロボットを通じて多くのドラマをプロデュースしているが、自身が企画に参加したのは「フリンジ」を含め、「フェリシティの青春」「エイリアス」「LOST」の4作品しかない。デビュー作の「フェリシティの青春」から「LOST」に至るまで、J・Jが手がけたドラマは放送開始時から大反響を呼ぶのが常だった。しかし、「フリンジ」の場合、スタート時は大量の宣伝投下のおかげで高視聴率を獲得したものの、他のドラマのときのような熱狂を生み出していない。百戦錬磨のヒットメーカーであるはずのJ・Jが、どうして「フリンジ」に手を焼いているのだろうか?

 それは、得意とするパターンをあえて封印しているからだ、と思う。

 「フリンジ」は、世界で頻発する超常現象を調査するために国土安全保障省内に結成された特殊捜査班の活躍を描くドラマで、「CSI:科学捜査班」と「Xファイル」をミックスしたようなスタイルになっている。毎回、ひとつの怪事件を解決する1話完結型ドラマになっているものの、「超常現象を引き起こしている黒幕は誰だ?」という壮大な謎がドラマの根底にあり、“ザ・パターン”“オブザーバー”などの魅惑的なキーワードが散りばめられている。が、シーズン1の前半ではこのミステリーが呆れるほど進展しないのだ。

 これは、J・Jがあえて狙ったことだった。「エイリアス」といい、「LOST」といい、J・Jが手がけたドラマはどれも連続性が高いため、熱狂的な中毒者を生み出す一方で、視聴者数が頭打ちになってしまうという課題があった。「Dr.HOUSE」や「CSI」が全米視聴率ランキングで常に上位にいることからも明らかなように、1話完結型にしないことには高視聴率を稼ぎ出すことは出来ないのだ。

 また、連続性の高いドラマは、脚本家に大きな負担をもたらす。アメリカのドラマは日本の連載マンガと同じで、人気があるかぎり継続するから、壮大な一つの物語としてドラマを作り続けていると、いつか必ず壁にあたる。J・J自身も「エイリアス」で苦い経験をしている。「LOST」が奇跡的に成功を収めることができたのは、デイモン・リンデロフというJ・Jに勝るとも劣らない才能を発掘できたことに加えて、放送終了日をあらかじめ設定できたからだ。

 かくして、「フリンジ」は1話完結型ドラマとしてスタートした。が、当初はなかなかスタイルが定着せず、評判も芳しくなかった。そこで、シーズン1の後半で、J・Jは大胆なテコ入れを行う。もともと数シーズン後に導入する予定だったネタを、シーズン1の最終話で披露してしまうのだ。それは、それまでに発生した個別の怪現象に納得のいく関連性を提示しつつ、今後のストーリーの可能性を無限にまで押し広げてしまう凄まじい仕掛けだった。制作陣は壮大なミステリーを用意していながら、1話完結型にこだわるあまり、足踏みをしていたのだ。

 その後の「フリンジ」は、基本的なスタンスは変わらないものの、個々の怪事件に大きなミステリーが絡むようになった。1話完結型と連続型とのハイブリットで、ようやく独自のスタイルが確立されたのだ。

小西未来 ( こにし・みらい )
71年生まれ。LA在住のフィルムメーカー。 CUTにて「映画の『科学と学習』」「ハリウッド通信」連載中。公式サイトはこちら)。 写真:小西未来