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カテゴリ:テレ中のつぶやき

第8回 大企業経営者が平社員に扮して現場を学ぶリアリティ番組「アンダーカバー・ボス」

第8回 大企業経営者が平社員に扮して現場を学ぶリアリティ番組「アンダーカバー・ボス」

 長引く不景気の影響で、高額報酬を受け取る企業経営者への風当たりがいちだんと強くなっている。そんななか、大企業の経営者を主人公にしたリアリティ番組「アンダーカバー・ボス(原題)」がアメリカで話題を集めている。なにしろ、第1回の放送は、NFLスーパーボール中継の直後だったことも手伝って、3865万人という驚異的な視聴者数を記録。その後も、今シーズンから始まったリアリティ番組のなかで断トツの視聴率を誇っているのだ。

 成功の秘密は、単純明快なコンセプトにある。「アンダーカバー・ボス(Undercover Boss=覆面上司)」というタイトルの通り、ある有名企業のトップが新人社員に扮し、自社の現場を視察するというドッキリ番組なのだ。たとえば、第3話は米セブンイレブンの現CEO、ジョゼフ・デピントが主人公。彼は無精髭を伸ばし、“ダニー”という偽名を使って、フランチャイズ店の深夜のシフトや、トラック配送、工場勤務を1週間にわたって体験することになる。アメリカ全土にチェーンを持つ大会社ともなると、現場のアルバイトや社員が社長の顔を把握しているわけもなく、変装のうまさも手伝って、正体がばれることはない。変装した社長にはカメラクルーが常に付き添うが、周囲にはドキュメンタリー番組のスタッフだと説明する周到ぶりである。

 設定だけを聞くと、平社員に扮した社長が抜き打ちで社内の取り締まりを行うドッキリ番組だと思うかもしれない。たしかに、社長が規則違反を目撃する場面は多々ある。しかし、「アンダーカバー・ボス」が秀逸なのは、経営者が学習するプロセスのほうに主眼を置いていることだ。いまのアメリカにおいて、叩き上げでトップに登り詰めた大企業の経営者は少ない。だから、彼らは現場の仕事を理解はしていても、体験したことがないのだ。会議室では偉そうにしている彼らが、トイレ掃除をさせられたり、単純な作業でミスを連発する様は、見ていてとても楽しい。彼らは長時間におよぶ過酷な労働に耐え、現場の社員たちの生の声を耳に傾けることによって、経営者として成長していくのだ。悪者と見られていた経営者は好感度をあげることができるし、いくら働いても報われることのなかった社員たちは、社長から直々にお褒めの言葉や賞与をもらうことができる。企業のイメージアップにもなり、実によくできた番組だと思う。

 もちろん、これはリアリティ番組であって、ドキュメンタリーではないので、「ちょっと、出来過ぎじゃないか?」と思わせる演出も少なくない。社内の恥部はあまり描かれないし、どの企業にも献身的な社員が多すぎる気がする。

 それでも、誰もが知る有名企業の内情を、笑いとスリルとドラマを織り交ぜながら紹介しつつ、最後には大きな感動で仕上げてしまう作りは見事としか言いようがない。リコール問題で揺れているあの企業の社長さんも、この番組に出演すれば信頼を回復できると思うのだが。

小西未来 ( こにし・みらい )
71年生まれ。LA在住のフィルムメーカー。 CUTにて「映画の『科学と学習』」「ハリウッド通信」連載中。公式サイトはこちら)。 写真:小西未来