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カテゴリ:テレ中のつぶやき

第3回 「LOST」ファンの取り込みを目論んだABCの野心作「フラッシュフォワード」

第3回 「LOST」ファンの取り込みを目論んだABCの野心作「フラッシュフォワード」

野心的で質の高い新SFドラマ
野心的で質の高い新SFドラマ
Photo:Photofest/アフロ

 来年ついに「LOST」が完結する。最終章となるシーズン6は2010年2月から全米放送開始となり、5月にはフィナーレを迎えてしまうのだ。謎のほぼすべてが明らかにされるはずなので、この日を待ち望んでいた人も多いことだろう。しかし、過去5年間、「LOST」にどっぷり浸かってきたぼくにとって、番組終了は審判の日にも等しい。「LOST」なしの生活を想像するだけで、絶望的な気分に陥るほどだ。

 Xデーの到来を恐れているのは、全米放送を手がけるABCにしても同じである。もはやスタート時ほどの勢いはないものの、「LOST」はカルト番組として安定した視聴率を維持している。中毒性が極めて高いドラマのため、インターネット配信やDVD販売、海外への配給権販売などで高い利潤を生み出しており、ABC、および親会社のディズニーにとって貴重なドル箱なのである。

 「LOST」の終了を前に、ABCも手を拱いているわけではない。「LOST」のファン層を取り込むべく、今秋から新たなSFドラマをスタートさせた。それが、「フラッシュフォワード」である。

 基本設定はこうだ。ある日、全世界の人々が同時に気絶するという超常現象が起きる。人々はすぐに意識を取り戻すが、気絶していた間、誰もが半年後のビジョンを見ていたことに気づく。たった2分17秒のあいだ、人々の意識が未来に飛んでいたのだ。FBI捜査官のマーク・ベンフォード(ジョゼフ・ファインズ)は、相棒のデミトリー・ノオ(ジョン・チョウ)と共に捜査を開始。いったい、誰が何の目的で“フラッシュフォワード”現象を起こしたのか? 果たして未来を変えることは可能なのか?

 SFファンならご存じのとおり、原作は、1999年のSF小説『フラッシュフォワード』(ロバート・J・ソウヤー著)だ。ただし、原作では21年後の未来に意識が飛ぶ設定だったのがドラマ版では半年後に変わっていたり、超常現象の原因がヨーロッパ素粒子研究所(CERN)の実験ではなく、謎の組織の陰謀に変えられていたりと、ドラマ化にあたり基本設定以外はほぼすべて変更されている。

 製作総指揮は「ブレイド」シリーズや「バットマン・ビギンズ」の脚本を手がけたデビッド・S・ゴイヤー。「LOST」のペネロピ役で知られるソニア・ワルガーや、チャーリー役のドミニク・モナハンらがレギュラー出演するなど、「LOST」ファンを意識したキャスティングになっている。

 実際、「フラッシュフォワード」は「LOST」と非常によく似ている。超常現象を扱った群像劇であり、あちこちにヒントが散りばめられた壮大なミステリーでもある。

 しかし、正直に告白すると、今秋スタートする新ドラマのなかでもっとも期待していたにもかかわらず、ぼくはまだ夢中になれずにいる。「LOST」と似ているからこそ、差異が気になって仕方がないのだ。たとえば、キャラクターの描き方だ。「LOST」といえば、壮大な謎や奇想天外な展開をイメージする人が多いだろうが、魅力的な人物描写がドラマを支えていることはあまり知られていない。クリエイターのJ・J・エイブラムス自身も、「爆発やカーチェイスだけがあっても意味はない。感情移入できるキャラクターがいて、その人物が爆発に巻き込まれるという展開になって、はじめて観客は身を乗り出すんだ」と、キャラクター描写の重要性を説いている。しかし、「フラッシュフォワード」の製作陣は、そこまで心を配る余裕がないようだ。おかげで、すでに第9話に突入しているのに、ぼくはまだどのキャラクターにも感情移入できずにいる。これだけのキャストに恵まれながら、非常にもったいないことだと思う。

 もっとも、「LOST」と比較さえしなければ、「フラッシュフォワード」は野心的で質の高いドラマだ。「フラッシュフォワード」がシーズン2に無事突入することになれば、そのときには「LOST」が完結しているので、心の底から楽しめるようになっているはずだ。

小西未来 ( こにし・みらい )
71年生まれ。LA在住のフィルムメーカー。 CUTにて「映画の『科学と学習』」「ハリウッド通信」連載中。公式サイトはこちら)。 写真:小西未来