近年製作されたドラマのなかで、「プッシング・デイジー/恋するパイメーカー」ほど独創的なものはないだろう。なにしろ、リアルさを追求した犯罪ドラマが氾濫する米TV界に、ファンタジー色の強いラブストーリーを持ち込んだのだから。
「プッシング・デイジー/恋するパイメーカー」の主人公ネッドは、死者を生き返らせる能力を持つという設定だ。手で触れただけで死者を蘇らせることができるものの、生き返らせた人間を60秒以内に再び死亡させないと(蘇生した人間に再び手を触れると、2度と生き返らなくなる)、身近にいる誰かが代わりに死亡してしまう、という制約がある。幼い頃、1人を蘇生した代わりに他人を殺してしまったり、いったん生き返らせた人間にうっかり触れてしまったために完璧に殺してしまった過去を持つ彼は、自らの能力を封印し、パイ屋の主人としてひっそり暮らしていた。
ある日、ネッドは殺人事件を調査している私立探偵から、犠牲者の蘇生を頼まれる。犯人についての証言を得るために、死者を生き返らせて欲しい、というのだ。60秒以内に蘇生者を再び死亡させることを条件に、ネッドは仕事を引き受ける。しかし、殺人犯に殺されていたのが幼なじみの女性チャックだと分かり、ネッドは彼女を再び殺すことが出来なくなってしまう――。
ストーリーだけを聞くと、「ミディアム」や「デッドゾーン」のような超能力探偵のドラマを想像するかもしれない。が、「プッシング・デイジー/恋するパイメーカー」は、「アメリ」やティム・バートン映画に近い。極彩色の世界を舞台に、風変わりなキャラクターがつぎつぎと登場し、凝ったカメラワークが冴え渡る(パイロット版の監督は、撮影監督出身のバリー・ソネンフェルドが手がけている)。「CSI:科学捜査班」に代表されるような、リアルでダークな描写を特徴とする作品が大勢を占めるアメリカのTVドラマのなかで、独自の世界観を打ち出しただけでも評価に値するのだが、そのうえ意外なストーリー展開と、独特のユーモアセンスが散りばめられている。
最大の魅力は、メイクから小道具、カメラワークに至るまで徹底的に細部に凝りながらも、ハートを忘れていない点だ。たとえば、チャックを蘇生させたはいいものの、ネッドは一生彼女に手を触れることができない(触れてしまうと、2度と生き返らなくなる)。惹かれあう男女が手を握ることすら許されないという設定は、セックスとバイオレンスに満ちたTV界において、なんともロマンチックだ。
ちなみにこのドラマのクリエイターは、「HEROES/ヒーローズ」の脚本を執筆していたブライアン・フラー。シーズン1で最高のエピソードと名高い第17話「本当の家族」(原題:Company Man)を執筆した名脚本家である。(小西未来)
■TV放映情報
AXN独占日本初放送! シーズン1 (全9話) レギュラー放送
AXN Sunday Prime にて
【字幕版】
09年7月5日(日)スタート 日曜午後9時
(再放送:月曜午前10時、日曜午後1時)
【吹替え版/2カ国語】
09年7月6日(月)スタート 月曜午後10時55分
(再放送:火曜午前10時55分、土曜午後8時)
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