海外ドラマ 映画.com

海外ドラマトップ > コラム「アメリカ在住テレビ中毒者の告白 テレ中のつぶやき」 > 第10回 英イケメンシェフが苦戦を強いられる、米田舎町でのフード革命

カテゴリ:テレ中のつぶやき

第10回 英イケメンシェフが苦戦を強いられる、米田舎町でのフード革命

第10回 英イケメンシェフが苦戦を強いられる、米田舎町でのフード革命

アメリカの食生活改善に孤軍奮闘
アメリカの食生活改善に孤軍奮闘
Photo:ロイター/アフロ

 日本でも有名なイギリス人シェフ、ジェイミー・オリバーがアメリカでリアリティ番組をスタートさせた。アメリカ人の不健康な食生活を改善させようという大胆な企画で、その名も「Jamie Oliver's Food Revolution(ジェイミー・オリバーのフード革命)」。ロケ地に選ばれたのは、ウエストバージニア州にあるハンティントンという田舎町。ここはなんと市民の半数近くが肥満で、糖尿病や心臓病を患っている人が極端に多いことで知られている。オリバーの狙いは、「アメリカでもっとも不健康な町」の食生活を改善することで、フード革命をアメリカ全土に広げることだ。

 さっそくハンティントンの公立小学校を訪問したオリバーは、給食のメニューに愕然とする。朝食に冷凍のピザとチョコレートミルク、昼食はチキンナゲットとマッシュポテトといったありさまで、栄養が偏っているのはもちろん、ほぼすべてが添加物たっぷりの加工食品で賄われているのだ。給食の改善に乗り出したオリバーは、自慢の腕を振るい、新鮮な食材で栄養バランスの取れた献立を作り上げる。子供たちが良質な食事に目覚めれば、テイクアウトや冷凍食品しか子供に与えなかった親たちも料理に関心を持つようになり、やがて街全体が生まれ変わる、というのがオリバーの目論見だった。

 しかし、フード革命はいきなり頓挫してしまう。セレブリティに人気の有名シェフが精魂を込めて作ったチキンはジャンクフードに慣れきった子供たちにはすこぶる不評で、太った子供たちはチキンを残し、冷凍ピザのほうを貪るのだ。行政や給食業者の抵抗に遭いながら、「おいしい食事を食べれば、きっと分かってくれる」と信じていたオリバーは面目丸つぶれである。さらに、彼自身の言動が、自らを窮地に追い込んでいく。オリバーがアメリカ人の食生活を改善しようと、善意で動いているのは間違いない。しかし、ハンティントンの町において、彼は無名のイギリス人の若造にすぎない。そんな彼が、頭ごなしにハンティントンの人々の食生活を批判するものだから、町の人々はますます態度を硬化させていく。地元の新聞が、オリバーがイギリスのメディアに「ハンティントンの人々は偏狭で無知だ」と語ったコメントを掲載すると、オリバーは窮地に追い込まれる(実際、この町の人々は偏狭で無知なのだが、それはそれとして)。相手のためを思って正しいことを主張しながら、まったく聞き入れてもらえないオリバーは、まるで異教徒の宣教師のようだ。

 この番組は、結果的には食育の欠如とファストフード業界の暴走という、アメリカの病巣を描くことになったが、果たしてオリバーや制作サイドが意図していたかどうかは疑問である。リアリティ番組とは、リアルな題材を扱った娯楽番組であり、ドキュメンタリーでは決してないからだ。ぼく自身、この番組を観ていても、アメリカが抱える問題の奥深さに陰鬱とさせられるだけで、楽しくもなんともない。

 ただし、ハンティントンでは孤立無援のオリバーにも、セレブリティのなかに強力な応援団がいる。グウィネス・パルトロウは自身のウェブサイトgoopにおいて、彼に熱烈なエールを送っている。オリバーの壮大な試みがどんな結果をもたらすか、しっかりと見届けたいと思う。

小西未来 ( こにし・みらい )
71年生まれ。LA在住のフィルムメーカー。 CUTにて「映画の『科学と学習』」「ハリウッド通信」連載中。公式サイトはこちら)。 写真:小西未来